グリオーマホスピス

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グリオーマホスピス チームスタッフ

グリオーマホスピス概要

脳腫瘍とは

脳腫瘍には良性と悪性があり、良性腫瘍は髄膜腫、下垂体腫瘍、神経鞘腫などで全摘出により再発が起こることは稀で生命を脅かすことも稀です。悪性の代表のグリオーマ(神経膠腫)は脳腫瘍のなかで髄膜腫に次いで多くみられ、全脳腫瘍の約3割にあたります。1年間の発生率は人口10万人あたり5名程度ですので、岐阜県の人口約200万人にたいして100名程度の方が1年間に発症します。グリオーマは細かく分類すると何十種類もありますが、比較的良性のものから悪性のものまで4段階に大別されます。最も悪性がグリオブラストーマ(神経膠芽腫)とよばれ平均余命は2年程度です。

 

グリオーマの治療と再発

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グリオーマの世界的標準治療は、まず開頭により摘出術を行って放射線治療と化学療法を追加しますが、20年近く著しい進歩はありません。90%程度を取れば生存期間が数ヶ月延びるという説もありますが、脳は胃や大腸などと違って全部を摘出することも出来ません。それに加えて腫瘍の周りを取り過ぎたりすると、麻痺や言語障害が起こります。このため、腫瘍は全部取って生存期間を延ばしてあげたいけど、障害は起こしたくないというジレンマの中で脳神経外科医は治療にあたることになります。また、腫瘍細胞はMRIなどの画像で見えるよりも深く脳内に浸潤しており、現実的に全部を摘出することは困難で必ず再発します。しかし、現在のところ再発した場合の治療法は確立されていません。グリオブラストーマが再発してからの予後は1年以内といわれ、どのように余命を迎えるかは、患者さんや家族にとって辛い時期になります。

 

緩和医療とは

グリオブラストーマは不治の病であり、高齢者や再発により既に大きな障害を来している方は、治療を見送られ緩和医療を選択される方も見えます。緩和医療とは、「生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族の身体的・社会的・精神的な生活の質を充足させること」と定義されています。一般的に緩和医療を選択された場合には、最初に治療を行った病院を離れて、緩和ケア病棟のある病院や療養病院、自宅などで最期を迎えることになります。この場合、脳神経外科の専門医から離れることにもなり、痙攣などの合併症への対応に不安を持っている家族も多く見えます。自宅に戻られた場合には、痙攣を繰り返したり、救急車を呼ぶタイミングが分からなかったりするなどして、入退院を繰り返す患者さんもみえます。このため、療養病院や自宅で過ごしていても、脳神経外科医との連携が大切になります。
 日本では緩和医療は「最後の最後」として捉えられていますが、欧米では患者さんやご家族の不安や心配事に対応できるように、早い時期から緩和医療を受けることが勧められています。緩和医療を受けることによって、患者さんやご家族の安心だけでなく入院期間の短縮や生存期間の延長にも繋がると報告されています。

 

グリオーマホスピスとは

グリオーマなどの悪性脳腫瘍では患者さんだけでなくご家族も不安になります。悪性脳腫瘍の治療では生存期間を少しでも延ばすことが目標とされていましたが、最近では人としての尊厳を保つこと、どのようにして安らかな最期を迎えるかも問われています。悪性脳腫瘍の患者さんやご家族に携わっていると「こんなドロドロの不味そうな食べ物とか可愛そう」、「(治療を断念し転院に際して)見捨てるってことですよね」、といった声もいただきました。また、「延命治療は止めてほしい」、「再発した時はもう何もしないでほしい」といった方や、「少しでも長生きがしたい」、「可能性のある治療は全て受けたい」といった方もみえます。このような経験から、個々の患者さんとご家族の要望に応えるためにテーラーメイドな脳腫瘍医療を目指して令和元年よりグリオーマホスピスを開設しました。「(グリオーマホスピスへ)もっと早くくればよかった」、といった声もいただいております。グリオーマホスピスを受診される方は、現在の主治医にご相談いただくか、専門外来にご連絡ください。

 

グリオーマホスピスの実際

1.良性および悪性脳腫瘍の手術から最期まで一貫した治療(放射線治療以外)
 2.最初の病院での治療が終了し、どこに行ったらいいのか困っている方の相談
 3.自宅での療養が困難な方は最期まで入院サポート
 4.最期は自宅で迎えたい方には、自宅での過ごし方などが習得出来るようにサポート
 5.少しの間でも自宅に帰りたい方には短い期間でも帰宅できるようにサポート
 6.早期からの緩和ケアを必要とされる方
 7.セカンドオピニオン

 

患者さん・ご家族へ

人生会議を行っておきましょう

脳腫瘍の病状によっては、これからの治療や最後の迎え方などについて自分で決めたり、人に伝えたりすることが難しいことがあります。もしも、患者さんがそのような状況になった時、家族など患者さんの信頼できる人が「あなたなら、たぶん、こう考えるだろう」と患者さんの気持ちを想像しながら、医療従事者と「人生会議」をすることになります。その場合、患者さんの信頼できる人が、患者さんの価値観や気持ちをよく知っていることが重要な手助けとなります。人工呼吸器や心肺蘇生などの延命治療をどうするか、食べられなくなったときにどうするか、など難しいことを決めていく必要があります。困った場合は、現在の主治医かグリオーマホスピス外来で相談してください。
 自宅で療養されている方の中には、最期まで自宅で過ごすことを希望される方もみえます。最期を自宅で迎えるか、病院で迎えるかについても十分に話し合っておきましょう。一度決めた気持ちが変わってくることもあります。「人生会議」は繰り返し話し合いをして、お互いの気持ちを確認しあったりする過程も大切ですので、遠慮せずに何度でも相談してください。

 

脳腫瘍支持療法情報

日本脳腫瘍学会では令和4年に脳腫瘍患者さんのトータルサポートのために支持療法委員会が発足しました。合併症などの神経症状への対処法、在宅療養や転院、脳腫瘍患者が利用できる社会保障制度、就労支援やリハビリテーションなどの手引き書を作成しています。グリオーマホスピスのスタッフも作成に協力していますので、手引き書への質問などもお気軽にお問い合わせ下さい。

 

JBTA脳腫瘍ネットワーク

不安なときに「悩んでいるのは自分だけではない」と感じることで安心感を得られることがあります。脳腫瘍ネットワークでは、脳腫瘍患者さんやそのご家族から情報を得ることが出来ます。

 

グリオーマホスピスからの学会発表

第1回脳腫瘍支持療法研究会 2023
  ●副田明男、他:悪性脳腫瘍患者の緩和ケア:グリオーマホスピスの提案 
  ●伊東奈保美、辻若子、他:悪性脳腫瘍患者のポリファーマシー適正化の試み 
  ●大野香、髙見洸輝、川合由紀子、今尾智恵、他:悪性脳腫瘍患者の終末期におけるリハビリテーションの現状と課題 
  ●齊藤裕樹、他:グリオーマホスピスにおける悪性脳腫瘍患者の社会的支援 
  ●玉村笑子、可児朋香、他:グリオーマホスピス利用対象者へのアンケートからみる悪性脳腫瘍介護者のニーズの検討

第40回日本脳腫瘍学会 2022 副田明男:悪性脳腫瘍患者の緩和ケア:グリオーマホスピスの開設4年目で見えてきた課題

第81回日本脳神経外科学会総会 2022 副田明男:悪性脳腫瘍患者の緩和医療:グリオーマホスピスの開設から3年

第78回日本脳神経外科学会総会 2019 副田明男:悪性脳腫瘍患者の終末期医療:グリオーマホスピスの開設

 

外来日時

月曜日・火曜日・金曜日(※祝日,12/29~1/3を除く) 9時00分~12時00分 ※完全予約制

 

担当医師紹介

第二脳神経外科部長 副田 明男(そえだ あきお)医学博士 
 日本脳腫瘍学会 脳腫瘍支持療法委員会委員

脳腫瘍に関する経歴

2004〜7年:岐阜大学大学院医学科 脳神経外科・再生医科学教室にて幹細胞の研究に従事し、脳腫瘍患者から癌の元となる癌幹細胞を発見(日本初)
 2007〜10年:米国ピッツバーグ大学 脳腫瘍プログラム
 2010〜11年:米国バージニア大学 脳神経外科
 2009年:上原生命科学財団リサーチフェロー

悪性脳腫瘍に関する論文・著書(筆頭著者のみ)

副田明男 成田善孝:脳腫瘍患者のホスピス-- 臨床脳腫瘍学 ―最新の診断・治療と病態― 2023
 副田明男:転移性脳腫瘍の緩和ケア-グリオーマホスピスの開設. 癌と化学療法 2022
 Soeda A. et al.: The p38 signaling pathway mediates quiescence of glioma stem cells by regulating epidermal growth factor receptor trafficking. Oncotarget 2017
 Soeda A. et al.: The evidence of glioblastoma heterogeneity. Scientific report 2015(岐阜大学大学院医学科論文賞受賞)
 Soeda A. et al.: Surface protein dynamics in glioma stem cells. Austin J Neurosurg 2014
 Soeda A. et al.: Cancer stem cells and glioblastoma multiforme: Pathophysiological and clinical aspects. Advances in Cancer Stem Cell Biology 2011
 Soeda A. et al.: Hypoxia promotes expansion of the CD133-positive glioma stem cells through activation of Hif-1a. Oncogene 2009
 副田明男 他:幹細胞の光と影--iPS 細胞・癌幹細胞が脳腫瘍研究を変える--脳神経外科速報 2009
 Soeda A. et al.: Epidermal growth factor plays a crucial role in mitogenic regulation of human brain tumor stem cells. JBC 2008(岐阜大学大学院医学科論文賞受賞)
 副田明男 他:脳腫瘍幹細胞を標的としたテーラーメイド医療の実現を目指して Medical Technology 2007

 

医療従事者の方へ

アドバンスケアプランニングと早期からの緩和ケア

悪性脳腫瘍の緩和ケアでは、「Advance care planning」、「Early palliative care」が重要なキーワードとなってきています。「Advance care planning(ACP)」とは、がん患者のみならず、個人の将来の意思決定能力の低下に備えて、患者やその家族とケア全体の目標や具体的な治療・療養について話し合う課程として提唱されています。ACPでは結論を求めるのではなく、都度話し合う過程が肝要と言われています。しかし日本ではACPの認知度が低く、悪性脳腫瘍に対する規範はありませんでした。そこで、2022年に発足した脳腫瘍支持療法委員会より、「手術を含めた治療開始前」、「組織診断後の放射線化学療法前」、「再発・増悪等の病態進行時」の病期に合わせたACPの提案が作成されています。主治医との確認事項なども含まれていますので、是非ご活用ください。
 「Early palliative care」とは、文字通り早期からの緩和ケアと訳されます。緩和ケアと言いますと、積極的治療が困難となった場合の「看取り」と理解されている方が多いかと思います。しかし、緩和ケアはがん患者においてQOLに貢献するだけでなく、生存期間の延長及び入院期間を減少させることが認められるため、悪性脳腫瘍患者においても早期の介入が重要とされています。一般的に緩和ケアへ紹介するタイミングは、予後12ヶ月未満で診療後3カ月以内、化学療法のセカンドライン導入後もがんが進行されている時とされていて、最近のがん対策基本法に基づくがん対策推進計画では、「診断時からの緩和ケア」が推奨されています。つまり、緩和ケアというのは、「最後の手段ではない」ということになります。膠芽腫の予後を考慮しますと、「初期治療とともに緩和ケアが始まっている」と言っても過言ではないでしょう。患者の家族からは「もっと早く(グリオーマホスピスへ)来ればよかった」、「(療養型病院と違って)脳外科の先生に診てもらえる(看取ってもらえる)と安心」などの声もいただいております。また、グリオーマホスピスでは在宅療養を積極的に勧めて、在宅医と連携しながら当院からも訪問診療を行っています。終末期ケアが必要な脳腫瘍患者だけでなく、早期からの緩和ケアの介入をご希望の患者がいらっしゃいましたら、グリオーマホスピスへご紹介いただけますと幸いです。

 

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