検診データから副甲状腺機能亢進症を早期発見可能に
2026年05月13日 お知らせ
当院の奥村内分泌・糖尿病内科部長たちの研究グループが、人間ドックで検査可能な「カルシウム」と「リン」の差で副甲状腺機能亢進症の早期発見につながる画期的なスクリーニング(選別)方法を発見いたしました。
この論文はBMC Endocrine Disordersに令和8年4月24日に掲載されました。
DOI(https://doi.org/10.1186/s12902-026-02223-z)
全文(https://rdcu.be/ffacp)
研究のくわしい内容ついてはこちら(日本語)
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副甲状腺機能亢進症(PHPT)について
副甲状腺について

副甲状腺は、甲状腺の裏側(左右上下)にある米粒大の4つの大きさの臓器です。小さいですが、「体中のカルシウム濃度を正常に保つ」という非常に大切な役割を果たしています。
カルシウムは骨に貯蔵されており、副甲状腺ホルモンのはたらきによって、血中のカルシウム濃度が低くなれば、そこからカルシムを放出させる命令を体にだします。
カルシウムの働きについて

カルシウム、というと骨を丈夫にする(骨の材料)というイメージが強いかもしれません。ですが、それだけでなく心臓も含めた全身の筋肉を収縮させたり体を正常に保つためになくてはならないミネラルです。体内のカルシウムの約99%は骨や歯に蓄えられています。では残りの1%は?というとそちらも重要な役割があります。
●筋肉の収縮
カルシウムは筋肉の細胞内で収縮の引き金になります。筋肉のスイッチのような役割を担います。
●神経伝達の調整
体の動きや感覚を整えるはたらきがあります。
●血液凝固
止血の働きにも関わり、出血を防ぐ役割もあります。
このように、カルシウムは体内を正常に保つためにかかせないものです。副甲状腺はカルシウムの濃度を管理している、いわば身体の管理職ですね。
副甲状腺機能亢進症について
副甲状腺機能亢進症(以下PHPT)とは、この副甲状腺に腫瘍ができることにより、副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰分泌され、カルシウムの血液内の濃度が上昇してしまう病気です。
骨からカルシウムが血中に過剰に放出されることにより、進行すると、骨粗鬆症、尿路結石、心血管死などが引き起こされる可能性が高まります。この病気のアジア人による有病率は約0.18%とされ、1,000人中約2人ほどが発症するとされています。(少ないように見えますが、おなじようにホルモンの病気でよく取り上げられるバセドウ病とほぼ同じ有病率になります。)
これらは早期発見することにより手術で治療可能ですが、多くは他の疾患を引き起こすほど重症になるまで無症状で発見が遅れやすいことが問題でした。
研究について
早期発見が難しい副甲状腺機能亢進症
確定診断には副甲状腺ホルモン(PTH)の血液検査が必要ですが、コストや手技の問題から健診での一斉測定は現実的ではないため、従来は健診で測定される血清カルシウム値を指標にしていました。しかし、正常値内に収まる「見えない異常」を見落としやすく、精度に限界がありました。
研究内容について
研究グループはまず、院内の血液ガスデータ5550件を分析しました。カルシウム値をより正確に補正する複数の計算式を比較したところ、「James式」と呼ばれる補正式が最も実際の値に近いことを突き止めました。さらに、この補正カルシウム値から血清リン値を引いた「カルシウム-リン差(Ca-P差)」という指標を算出することで、副甲状腺ホルモン検査に迫る高い診断精度(正確さを示す指標AUCで0.965)が得られることを確認しました。PTH検査のAUCは0.983で、ほぼ同等の精度を追加コストなしで実現できることになります。
健診受診者2562人を対象に実際に適用したところ、従来の総カルシウム値による方法では64人を精密検査の候補として挙げる必要があったのに対し、Ca-P差を使うと5〜7人に絞り込むことができました。見つかった患者4人は全員検出でき、より少ない労力で確実に患者を見つけられることが実証されました。
当院ではこの研究の過程でスクリーニング体制を整備した結果、副甲状腺機能亢進症と診断される患者が年間2.5人から12.5人へと大幅に増加しました。

平田 結喜緒先生よりメッセージ
診断が難しいPHPTを一般検査だけでスクリーニングできる優れた方法です。明日の診療にも役立つものであり、臨床現場や健診で取り入れる価値のある論文だと思います。
平田 結喜緒先生
内分泌代謝学、高血圧症を専門とされ、数多くの専門書を執筆・監修されています。東京医科歯科大学(現 東京科学大学)名誉教授を務められています。
さいごに
副甲状腺疾患は無症状の内での発見が難しく、スクリーニングが課題とされてきました。今回の研究は既存の健診データを活用するだけで、こうした課題を克服できることを示した点でも意義が大きいと考えます。この研究には名古屋大学大学院の有馬寛教授が共著者として参画くださいました。

