「緩和ケアセンター」令和5年度 緩和ケア通信

2023年12月25日 お知らせ

今年度は実施した勉強会の内容を通信としてお知らせしてきます。興味を持たれましたら是非勉強会にもお越しください。

緩和ケア通信一覧

 

No.7 腎不全領域の緩和ケア 2023.04.19

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5月の勉強会は「腎不全領域の緩和ケア」というテーマでお話をしました。緩和ケアといいますと、これまでは癌領域に限定されてきました。しかし、終末期という視点で見れば癌も非癌も緩和ケアが必要です。私たち急性期病院の腎臓内科医師は、患者の終末期への対応は不慣れです。透析治療という手段があるため、透析すれば患者は楽になるし、自分たちの仕事もその時点で一区切りと考えがちでした。そうして、透析をすることが出来なくなった患者と向き合ってこなかったのです。

透析をしてきた患者にも、腎不全末期の患者にもやがては透析治療を出来なくなるときがやってきます。こうした患者の苦痛にどのように向き合っていくか。いつまで透析を継続していくか、非常に難しい課題です。「保存的腎臓療法=Conservative Kidney Management」(以下CKMと記載します)という概念は最近出てきた言葉です。透析治療によらず薬物療法で様子を見ていく方法です。尿毒症状を改善することは出来ませんが、投薬調整や患者との面談を通して尿毒症状を軽減していくことが期待されます。日本では未だ治療として確立はされておらず、腎代替療法選択の場において、このような治療を提案することもまだ憚られる状況です。患者にとっては医者から見放されたと感じるかもしれず、医療者も透析治療に頼らずに患者をケアしていくことに慣れていないからだと思います。

緩和ケアもCKMも単なる治療法ではなく、一つの文化と言えます。新しい文化を受け入れるのには相応の時間がかかることも覚悟しなくてはなりません。これを機会にこうした治療概念に腎臓領域以外の医療スタッフの方々も興味を持っていただけたらと思います。

もちろん、比較的若く、腎臓疾患以外に併存疾患もほとんどない患者には透析治療を第一に勧めます。しかし、高齢者でかつ併存疾患も進行していたり、あるいはサルコペニア、低栄養が進んでいるような患者においては、透析治療を導入しても、他の疾患が進行したり、寝たきりの状況が改善されない可能性が出てきます。このような患者たちには透析をすることのメリット(尿毒症状の改善、浮腫の改善、呼吸状態の改善)とデメリット(透析治療により一日の大半が治療に拘束されること、血管の手術やカテーテル埋め込み手術が透析には必要であること)を説明した上で透析治療を行うかどうかを検討する必要があります。

透析治療は一度始めるとやめられない、という考えが昔からありました。しかし、今はそういう時代ではありません。状況に応じてやめたかったらやめる、患者の意思を繰り返し確認する作業を怠ってはいけません。勿論、今透析治療を日々受けている患者にも治療を中断する権利があります。ただ、中断することにより患者が被る苦痛も理解した上で透析継続するかどうかを話し合う必要があるということです。

これまで、阿吽の呼吸で透析の開始や中断が行われてきました。これからは、患者の意思を最大限尊重し、透析を継続するかどうかをそれぞれの患者において決めていく必要があります。透析患者のアドバンスド・ケア・プランニングもこうした視点から進めていく必要性を感じています。

私たち腎臓内科医もこれまで目を背けてきた尿毒症死や透析治療の見合わせと向き合っていかなければならなくなりました。時代は確実に変わってきていると感じています。

(血液透析科部長 重本 絵実)

  

公立学校共済組合東海中央中央病院
緩和ケアセンター
2023年5月

  

No.8 若年(AYA世代)がん患者の緩和ケア 2023.06.21

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6月の勉強会は「若年(AYA世代)がん患者の緩和ケア」というテーマでお話をしました。 「AYA (Adolescent and Young Adult) 世代」とは、思春期〜若年成人(高校生~40歳 程度まで)のことです。この世代は、小児から成人へと移行していく時期であり、家族以外の人との親密な関わりを通して、自己のアイデンティティを確立しながら、親から自立し、生活の中心を家庭から社会、そして新しい家庭へと移行させていく大きな転換期です。また、就学や就労、結婚や出産、育児といったライフイベントが起こる時期でもあり、このような多感な時期にがんと診断されると、心や身体にさまざまな影響を受けます。

AYA世代がんの特徴

日本では、毎年約2万人のAYA世代が、がんを発症していると推定されています。これは、 1年間でがんを発症する患者さん全体の約2%にあたります。年代別にみると、15~19歳で約900人、20代で約4,200人、30代で約16,300人です。(2017年)。AYA世代には、小児で発症することが多いがん(白血病、生殖細胞から発生する胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、リンパ腫、脳腫瘍、骨腫瘍など)と、成人で発症することが多いがん(乳がん、子宮頸がん、大腸がん、胃がんなど)の両方の種類が存在します。がんの種類によっても異なりますが、AYA 世代がんの治療成績は、ほかの年齢層よりも良くないといわれています。
その理由として、
 ① 患者さんの数が少ないため、治療方法の開発が遅れている
 ②高齢者に比べて、進行の早いがんが多い(がんの生物学的相違)
 ③がんになることが少ない世代であるため、患者さんも医療者もがんを疑おうとしなかったり、自身の生活や仕事を優先して、医療機関への受診が遅れがちになる、
などが考えられます。

患者さんをとりまく環境

思春期(A:Adolescent) 世代では、がん治療により、学業や就労が遅れたり、中断するなどの影響を受け、人生設計の変更を意義なくされる可能性があります。若年成人(YA: Young Adult) 世代では、がん治療により、仕事や子育て、介護への影響が不可避となります。こうした問題による不安から、精神的ストレスを抱える患者さんも少なくありません。また、がん治療は、不妊のリスクを伴うため、生殖年齢にあるAYA世代がん患者においては、将来の挙児希望にも配慮が必要です。経済面では、18歳未満の発症の方には小児慢性特定 疾患、40歳以降では介護保険といった公費負担制度がありますが、AYA世代の患者さんにはこうした制度がないため、経済的負担が大きいという問題があります。

当院の緩和ケアチームの取り組み

平成30年度より、第3期がん対策推進基本計画に基づき、国として本格的なAYA世代のがんへの取り組みが始まりました。当院の緩和ケアチームでも、院内または近隣施設と連携し、AYA世代の患者さんの身体や心のケア、家族支援、学業や就労支援、妊孕性、経済的問題についての相談など、患者さんの個別のニーズに合わせた支援を行っています。患者さんが、がんの治療をしながら、その人らしく生活を送ることができるように、他職種で協力して支援を行っています。緩和ケアは、がんと診断された時から、どなたでも、いつからでも受けることができます。がんに関することでお困りのことがありましたら、何でもご相談ください。

(緩和ケア内科医長 大沼紗希子)

  

公立学校共済組合東海中央中央病院
緩和ケアセンター
2023年7月

  

No.9 慢性便秘症と緩和ケア 2023.08.16

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8月の勉強会は「慢性便秘症と緩和ケア」というテーマでお話させていただきました。まずは便秘症について、次に便秘症の治療法、最後に緩和ケアにおける便秘についてお話させていただきました。

慢性便秘症について

便秘症についてのガイドラインはいままでは2017年に発行された「慢性便秘症診療ガイドライン」に従って診療を行っておりました。発行後にも便秘の新薬が登場し、新たなエビデンスをもとに2023年7月に「便通異常症診療ガイドライン2023慢性便秘症」が発行されました。医学的における定義は、「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な努責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」とされております。慢性便秘症はQOLを低下させたり、心血管疾患の発症・死亡リスクの増加などに関与します。また聴講者の方からも教えていただいたのですが、認知症の発症リスクにも関与しており、便秘のコントロールがいかに重要であるかが伺えます。

慢性便秘症の治療

治療には大きく薬物療法と非薬物療法に分けられます。生活習慣の改善で効果が得られない場合は薬物治療を検討しますが、まずは浸透圧性下剤を使用します。効果が乏しい場合にはここ5-6年で発売された、胆汁酸トランスポーター阻害薬などの新薬を考慮したり、消化管運動機能改善薬、漢方なども併用したりと、今回のガイドラインでは新薬も含めた治療のフローが詳細に記載してありました。

緩和ケア領域における便秘

緩和ケア領域における便秘の分類としては、
 ①癌の直接の影響
 ②癌の2次的な影響
 ③薬剤性
 ④癌以外の併存疾患 が挙げられます。
 癌患者さんでは疼痛コントロールとしてオピオイドを使用するケースもあり、オピオイド誘発性便秘の約半数が便秘は発症するデータもでています。オピオイド誘発性便秘症は、オピオイドが腸管に存在するμ受容体に結合することで、消化液の減少、蠕動運動の減少、腸管内容物の輸送遅滞、肛門括約筋の緊張によって便秘を引き起こします。先のガイドラインでもオピオイド誘発性便秘症の記載はあり、スインプロイクを始めとした投薬にてコントロールを図ります。全身状態によっては内服困難な患者さんもみえるため、状態に合わせて腹部マッサージ、温罨法、ツボ刺激、姿勢の工夫なども重要です。また排便自体にストレスがかかる動作となる場合もあり、プライバシーや導線の確保、衛生面への配慮など多職種にわたる情報共有も必要となってきます。

  

最後になりますが、今回の発表をさせていただきました川端緩和ケア センター長ならびにスタッフの方々に感謝申し上げます。またご聴講にきていただいた方も8月の暑い中ご参加くださりありがとうございました。
 今後ともよろしくお願い申し上げます。

(消化器内科部長 小林健一)

  

公立学校共済組合東海中央中央病院
緩和ケアセンター
2023年9月

  

No.10 終末期における 呼吸リハビリテーション 2023.10.18

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10月の勉強会は「終末期における呼吸リハビリテーション」というテーマでお話をしました。

呼吸リハビリテーションとは、「呼吸器に関連した病気を持つ患者さんが、可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため、医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して、自立できるよう生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入である。」と新しく定義されております。定義には、「予防」、「自己管理」、「健康増進」、「行動変容」が加えられ、双方向性の医療の概念も重要とされております。

  

終末期における呼吸リハビリテーションでは、トータルペインや呼吸困難、咳嗽の軽減に加えて、廃用、関節拘縮や褥瘡等の予防を目的に実施されます。
 主な手技としては、運動療法(全身持久力・筋力トレーニング)、コンディショニング、ADLトレーニングにより構成されます。
 運動療法は、呼吸リハビリテーションの中核となり、終末期においても病態に合わせて継続しやすい負荷量(低負荷)を選択します。

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コンディショニングは、終末期において特に推奨されるアプローチであり、呼吸や身体の状態を整え運動療法を効率的に行うこと、患者さんの意欲向上や運動に対する不安感軽減などの精神・心理的な介入としての役割もあります。またコンディショニングは、呼吸練習(口すぼめ呼吸、呼吸同調歩行、腹式呼吸等)、リラクセーション、安楽な体位、胸郭可動域練習、排痰法、送風療法等があり、吸入薬等への服薬アドヒアランスの向上等も含まれます。
 ADLトレーニングでは、日常生活における呼吸困難の軽減と、動作遂行能力・QOL向上を目指します。主に、筋力強化や 柔軟性等運動機能に対するアプローチと、呼吸困難を軽減するための動作パターンと呼吸のトレーニングや道具の工夫を含めた環境整備等の生活機能に即したアプローチの二本柱で構成されます。

  

呼吸リハビリテーションは、生涯にわたり継続して介入され、適応となる全ての患者さんに導入されることが望まれます。呼吸困難の軽減、身体活動や健康状態及びQOLの向上・維持を主な目標として、急性期・回復期・維持期(生活期)・周術期を含むシームレスな介入です。アドバンス・ケア・プランニングに従って終末期まで継続され、症状緩和の重要な柱となります。患者さんが疾患や治療などにより様々な影響がある中で、自分らしい生活・人生を考え歩もうとすることを他職種やご家族と連携し支援できる体制が重要となります。

(リハビリテーション科 主任理学療法士
  福田 啓太)

  

今年度は通信発行の前月に実施した勉強会の内容を通信としてお知らせしてきます。興味を持たれましたら是非勉強会にもお越しください。

公立学校共済組合東海中央中央病院
緩和ケアセンター
2023年11月

  

No.11 その人らしい暮らしの支援 ~訪問看護の現場から~ 2023.12.20

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12月の勉強会は「その人らしい暮らしの支援~訪問看護の現場から~」というテーマでお話をしました。緩和ケアとターミナルケアにおいては、病気の治癒が望めないと判断された時期から人生の最期を迎えるまでの間、人間らしくすごしていくことを目的としています。

各務原市の人口の推移

各務原市は市政60周年。60年前と比較し人口は約2倍。現在90歳以上の方が2,100人、20年後には5,000人を超える見通し(人口は変わらない)です。ニーズも多様化することが予想されています。

岐阜県令和元年度県政モニターアンケート

療養の希望場所においては63.3%の方が自宅等で過ごしたいと希望される一方で、最後まで自宅で療養することが可能かどうかにおいては63.6%の方が困難であると回答されています。その理由として、家族への負担と居住環境が整っていないという療養環境の課題、症状が急に悪くなった時の対応が不安、かかりつけ医がいない、24時間相談にのってくれるところがない、訪問看護が整っていないというインフラの課題があります。

人間らしくすごしていくこと

人間らしくすごしていくために、意思決定支援は重要です。気持ちは揺らぐことを前提として、納得できる生き方=納得のできる選択ができることが重要です。特に人生の最終段階においては、何が正解なのかわからず、選択のやり直しができないことが多いです。だからこそ「納得のできる選択」がより重要になります。人生会議が人生決議にならないように「何を選んだ」よりも「どう選んだか」の支援をさせて頂いています。意思決定支援のツールとして、各務原市では今後の治療・ケアについて患者さん・ご家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス【ACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング)】の前段階として、【ALP(Advance Life Planning:アドバンス・ライフ・プランニング)】人生アルバムを作成して出前講座を実施しています。

在宅医療という選択肢

通い(外来)から、入院、そして在宅とお身体の状況に応じて、必用な医療・福祉サービスを受けることができます。在宅においては専門的な知識を持つ医療職・介護職が連携して自宅等を訪問させて頂くことができます。訪問看護では、かかりつけ医の指示を受けた看護師やセラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)が、病気や障がいを持った人の住み慣れたご家庭などに訪問し、その人らしく過ごせるように看護ケア(健康状態の観察、病状悪化の防止、身体の保清、排泄介助と指導、療養生活の相談やアドバイス、医療機器の管理、リハビリテーション、緊急時の対応、ご家族等への介護指導や相談、多職種との連携、意思決定支援)を提供したり、医師の診療の補助(例:採血、点滴、薬剤の管理、床ずれの処置と予防など)をし、療養生活を支援しています。

(みんなのかかりつけ訪問看護ステーション
  事業所長塚原稔世様)

  

今年度は通信発行の前月に実施した勉強会の内容を通信としてお知らせしてきます。興味を持たれましたら是非勉強会にもお越しください。

公立学校共済組合東海中央中央病院
緩和ケアセンター
2024年2月

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