「緩和ケアセンター」緩和ケア通信 No.8 《若年(AYA世代)がん患者の緩和ケア》

2023年07月31日 お知らせ

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6月の勉強会は「若年(AYA世代)がん患者の緩和ケア」というテーマでお話をしました。 「AYA (Adolescent and Young Adult) 世代」とは、思春期〜若年成人(高校生~40歳 程度まで)のことです。この世代は、小児から成人へと移行していく時期であり、家族以外の人との親密な関わりを通して、自己のアイデンティティを確立しながら、親から自立し、生活の中心を家庭から社会、そして新しい家庭へと移行させていく大きな転換期です。また、就学や就労、結婚や出産、育児といったライフイベントが起こる時期でもあり、このような多感な時期にがんと診断されると、心や身体にさまざまな影響を受けます。

AYA世代がんの特徴

日本では、毎年約2万人のAYA世代が、がんを発症していると推定されています。これは、 1年間でがんを発症する患者さん全体の約2%にあたります。年代別にみると、15~19歳で約900人、20代で約4,200人、30代で約16,300人です。(2017年)。AYA世代には、小児で発症することが多いがん(白血病、生殖細胞から発生する胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、リンパ腫、脳腫瘍、骨腫瘍など)と、成人で発症することが多いがん(乳がん、子宮頸がん、大腸がん、胃がんなど)の両方の種類が存在します。がんの種類によっても異なりますが、AYA 世代がんの治療成績は、ほかの年齢層よりも良くないといわれています。
その理由として、
 ① 患者さんの数が少ないため、治療方法の開発が遅れている、
 ②高齢者に比べて、進行の早いがんが多い(がんの生物学的相違)、
 ③がんになることが少ない世代であるため、患者さんも医療者もがんを疑おうとしなかったり、自身の生活や仕事を優先して、医療機関への受診が遅れがちになる、
などが考えられます。

患者さんをとりまく環境

思春期(A:Adolescent) 世代では、がん治療により、学業や就労が遅れたり、中断するなどの影響を受け、人生設計の変更を意義なくされる可能性があります。若年成人(YA: Young Adult) 世代では、がん治療により、仕事や子育て、介護への影響が不可避となります。こうした問題による不安から、精神的ストレスを抱える患者さんも少なくありません。また、がん治療は、不妊のリスクを伴うため、生殖年齢にあるAYA世代がん患者においては、将来の挙児希望にも配慮が必要です。経済面では、18歳未満の発症の方には小児慢性特定 疾患、40歳以降では介護保険といった公費負担制度がありますが、AYA世代の患者さんにはこうした制度がないため、経済的負担が大きいという問題があります。

当院の緩和ケアチームの取り組み

平成30年度より、第3期がん対策推進基本計画に基づき、国として本格的なAYA世代のがんへの取り組みが始まりました。当院の緩和ケアチームでも、院内または近隣施設と連携し、AYA世代の患者さんの身体や心のケア、家族支援、学業や就労支援、妊孕性、経済的問題についての相談など、患者さんの個別のニーズに合わせた支援を行っています。患者さんが、がんの治療をしながら、その人らしく生活を送ることができるように、他職種で協力して支援を行っています。緩和ケアは、がんと診断された時から、どなたでも、いつからでも受けることができます。がんに関することでお困りのことがありましたら、何でもご相談ください。

(緩和ケア内科医長 大沼紗希子)

  

今年度は通信発行の前月に実施した勉強会の内容を通信としてお知らせしてきます。興味を持たれましたら是非勉強会にもお越しください。

公立学校共済組合東海中央中央病院
緩和ケアセンター
2023年7月

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