「緩和ケアセンター」 緩和ケア通信 No.7 《腎不全領域の緩和ケア》

2023年05月31日 お知らせ

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5月の勉強会は「腎不全領域の緩和ケア」というテーマでお話をしました。緩和ケアといいますと、これまでは癌領域に限定されてきました。しかし、終末期という視点で見れば癌も非癌も緩和ケアが必要です。私たち急性期病院の腎臓内科医師は、患者の終末期への対応は不慣れです。透析治療という手段があるため、透析すれば患者は楽になるし、自分たちの仕事もその時点で一区切りと考えがちでした。そうして、透析をすることが出来なくなった患者と向き合ってこなかったのです。

透析をしてきた患者にも、腎不全末期の患者にもやがては透析治療を出来なくなるときがやってきます。こうした患者の苦痛にどのように向き合っていくか。いつまで透析を継続していくか、非常に難しい課題です。「保存的腎臓療法=Conservative Kidney Management」(以下CKMと記載します)という概念は最近出てきた言葉です。透析治療によらず薬物療法で様子を見ていく方法です。尿毒症状を改善することは出来ませんが、投薬調整や患者との面談を通して尿毒症状を軽減していくことが期待されます。日本では未だ治療として確立はされておらず、腎代替療法選択の場において、このような治療を提案することもまだ憚られる状況です。患者にとっては医者から見放されたと感じるかもしれず、医療者も透析治療に頼らずに患者をケアしていくことに慣れていないからだと思います。

緩和ケアもCKMも単なる治療法ではなく、一つの文化と言えます。新しい文化を受け入れるのには相応の時間がかかることも覚悟しなくてはなりません。これを機会にこうした治療概念に腎臓領域以外の医療スタッフの方々も興味を持っていただけたらと思います。

もちろん、比較的若く、腎臓疾患以外に併存疾患もほとんどない患者には透析治療を第一に勧めます。しかし、高齢者でかつ併存疾患も進行していたり、あるいはサルコペニア、低栄養が進んでいるような患者においては、透析治療を導入しても、他の疾患が進行したり、寝たきりの状況が改善されない可能性が出てきます。このような患者たちには透析をすることのメリット(尿毒症状の改善、浮腫の改善、呼吸状態の改善)とデメリット(透析治療により一日の大半が治療に拘束されること、血管の手術やカテーテル埋め込み手術が透析には必要であること)を説明した上で透析治療を行うかどうかを検討する必要があります。

透析治療は一度始めるとやめられない、という考えが昔からありました。しかし、今はそういう時代ではありません。状況に応じてやめたかったらやめる、患者の意思を繰り返し確認する作業を怠ってはいけません。勿論、今透析治療を日々受けている患者にも治療を中断する権利があります。ただ、中断することにより患者が被る苦痛も理解した上で透析継続するかどうかを話し合う必要があるということです。

これまで、阿吽の呼吸で透析の開始や中断が行われてきました。これからは、患者の意思を最大限尊重し、透析を継続するかどうかをそれぞれの患者において決めていく必要があります。透析患者のアドバンスド・ケア・プランニングもこうした視点から進めていく必要性を感じています。

私たち腎臓内科医もこれまで目を背けてきた尿毒症死や透析治療の見合わせと向き合っていかなければならなくなりました。時代は確実に変わってきていると感じています。

(血液透析科部長 重本 絵実)

  

今年度は通信発行の前月に実施した勉強会の内容を通信としてお知らせしてきます。興味を持たれましたら是非勉強会にもお越しください。

公立学校共済組合東海中央中央病院
緩和ケアセンター
2023年5月

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